元ハーレーダビッドソンジャパン株式会社 代表取締役社長 奥井俊史氏 |
CRMを活かしたマーケティング
今回は、1990年から19年に渡り、ハーレーダビッドソンジャパン株式会社の社長を務められた奥井俊史氏に、独自で展開された顧客データを中心としたマーケティングについてお話しをお伺いしました。
CRMを活用したマーケティングとは
吉見:まず、始めに、顧客データ管理と言うと、一般的にはお客様の名前を管理するだけに終わっている企業が多いと思うのですが、実際にどのように実践で活用されてきたのか、そのあたりのことをお伺いしたいのですが。
奥井:確かに、顧客データの可能性を充分に活かしきれていない企業が多く見受けられます。
私が推進してきたCRMは、トータルにマーケティングを支援するツールであって、お客様のデータが多い、少ないとか、住所を記録するだけにとどめてしまう(顧客管理)とは大きな違いがあります。
購買プロセス/マーケティングプロセスに対応して、お客様にどういう風に自社としてアプローチするのか、その結果にどういう風に反応して顧客化していくのか、そうしたプロセスが追えることが重要になってきます。
そして、一般的に「既存客」の管理としてとらえられることの多いCRMですが、本来の意味でのCRMは、マーケティングの原点である「顧客の創造」に活用すべきと考えています。
企業の目的も「顧客の創造」から始まり、維持し、ファン化していく、そうした流れがCustomer Relationship Management ですから、これに沿って機能させるべきが、CRMであるべきと考えています。
マーケティングの回転エンジンとしてのCRMの役割
吉見:お話しを伺っていると、CRMシステムはマーケティング全体のパーツとしての役割を果たすべきもの-と捉えて活用されているように思いますが。
奥井:そうですね。端的に言えば、マーケティングを機能させる各段階における「回転エンジン」になるものが何かと言えば、それ
がCRMです。
CRMの導入の目的は、お客様を育てていく過程において有効に活用できるマネージメントツールとして利用することにあります。
自社の継続した成長を支えることを考えるうえで、簡単で、かつ有効な手段としてCRMがあると考えています。
とはいえ、CRMはシステムですから、勝手にお客様が増えるわけではありません。企業におけるマーケティング活動とシステム(顧客データの活用)がかみ合って始めて、大きな成果を生み出すことができます。
とても難しく思われがちですが、基本的なアプローチは実に単純なんです。
例えば、来店されたときのアンケートを考える場合、まず、必要な目的のデータがとれるように項目(フォーム)を設計し、お客様へのアプローチ(話し方)をトレーニングします。
そして、重要なのが、そのデータの活かし方ですが、もっとも有効な活用方法は、お客様へのレスポンス-お客様へ返すことなのです。
「アンケートを書いたけど、その後何もない・・・」 これでは、関係性を作り上げることができません。
こうしたレスポンスのためにも、アンケート履歴やイベント参加歴などをデータとして蓄積しておくことです。
吉見:そうすると、必要な情報が何か、どう活用するか-が大切になってきますね。
奥井:そうなんです。どんな情報を集め、どう活用するのか、その考え方がしっかりとしていれば、システムをどう使うかを決めることができます。
CRMシステム自体は簡単な方が良い。機能が高度である必要は何もないと思います。
それよりは、アンケートのフォームや、データの入力方法、アンケートの収集体制、そうしたベーシックな仕組みが出来ているかどうかが大切な要因になります。
システムはこれらを補完してくれる道具として考えるべきだと思いますね。
吉見:CRMの基本は、マーケティングをどう実施するのか、それを基本として一つの道具として使っていく。そういう意味でのエンジンなのですね。
奥井:繰り返しになりますが、マネージメントの基本である顧客の「創造」「維持」「育成」「拡大」の4つを自分で考えたフォローサイクルを、忘れなく、滞りなく、怠慢を許さないように、システムが誘導してくれることが大切になります。
高度な分析や、方程式は必要ありませんね。データはシンプルな方が良い。大切なのは、顧客にどうアプローチするのか、お客様の反応やポジションをみながら、次の一手をうつ仕組みが大切になります。
CRMとCS(顧客満足度)の関係は
吉見:よく、「顧客満足度」という言葉がキーワードになることがありますが、これについての取り組みなどをお聞かせいただけますか。
奥井:顧客が感じる各ステップでの「反応得点」の集合で考えています。各プロセス、具体的には「来店」「商談」「購入後のアフターセールス」の段階など、お客様との設定における総和である必要があると思っています。
吉見:そうすると、一か所、一点だけを取って計測するものではないということですね。
奥井:お客様の反応は、「購入検討の段階から購入にいたるまでの顧客満足度」や「購入後、1年または2年後の満足度」など、」各段階で違います。CS(顧客満足度)の調査で大切なのは、継続して満足度がどのように推移しているのかを計測することです。
また、商品に対する満足度、販売における満足度、ブランドに対する満足度、それぞれの側面からも捉えて測定することが望ましい姿でないかと考えています。
吉見:来店のとき、購入後、そのたびに満足度を測定する仕組みはなかなか難しいと思いますが、特別な手法などありますか。
奥井:その時々で聞いていたら、お客様も不快になります。
そうした反応は、購買後1ヶ月くらいのお客様を対象に測定します。さらに、8か月後、16か月後と経過する年月に応じて、お客様の印象変化などの反応を測定していきます。
ここで有効に活用すべきが、CRMですね。そうしたデータをきちんと記録していくと、ひとりのお客様の購入直後の反応、8か月後の反応といったお客様の感情の変化が読み取れるようになります。それをグラフ化して経年(年を経た)での推移を理解していくことが重要になります。
こうすることで、顧客満足度という指標を、お客様の単なる印象から、経営/マーケティングに使える反応の推移としてデータ活用することができるようになります。
また、ある時点、例えば「購入時点」に注目し、10年前の顧客満足度と今の顧客満足度を比較することによって、現在のあり方も見えるようになります。
こうした数値は、今のマーケティングがどのように活かせているのかを知る重要な手がかりになります。
顧客満足度は、他社との比較より、自社のお客様でどう変化しているのかを捉えることが大切です。そうした意味でも、単年度や一時点の測定で終わらせないことが重要な要素になります。
吉見:ひとりのお客様の経年変化と、ある時点を切り口とした歴年変化の両方を見る必要があると、いうことですね。
奥井:お客様も変わってきますし、その年によってマーケティングも変化しているはずです。その変化を時系列に整理して、マーケティングが効果的に作用しているのか、その視点で見直す必要があります。
CRMとCS(顧客満足度)もかなり深い関係にありますね。お客様の反応を、「感覚」や「つもり」で計らないことです。
しっかりとアンケートやお客様からのヒアリング情報をデータ化し、毎月/毎年分析する仕組みを継続させるためには、やはりシステムの力が必要になりまが、そのために必要な機能は、複雑である必要はありません。そうしたデータが蓄積されていれば、簡単な表やグラフで表現できる範囲であると考えます。コンピューターはデータ蓄積能力には優れていますからね。それを利用することです。
奥井俊史
TOSHIFUMI OKUI |