「これの特許を取れば参入障壁になる」社長のAさんは胸を張って主張した。
「だからこうして研究開発に力を入れてきたんだ」これまでの苦労をわかって欲しいと大きなファイルを置いた。
「そしてついに完成したのがこれです」テーブルの上に広げた図面を見ればシロウトでもかなり複雑な製品であることがわかる。
でも私にはどこが特許の対象になるのかわからない。
「なるほど、素晴らしいアイデアですね」コンサルタントのBさんは説明を聞きながら何度もうなずいた。
「ところで社長、これを製品化するとどのくらいの価格で販売できますか?」
「そうですね。材料費、人件費、光熱費、それとこれまでの研究開発費、その他いろいろ考慮すると30 ~ 40万円くらいですね」
特許に詳しいBさんは「でも……」と言いかけて言葉を選んだ。
「実は過去の登録を調べてみたらこれと同じ効果が得られる装置が特許を取得していました。すでに製品化されて市場に出回っています。Aさんが開発した製品と構造はまったく違います。だから特許侵害にはなりません。ただ……」
言いづらそうだった。
「ただ問題は、もっと簡単な構造で、しかも3万円で売られています」
これは特許に詳しい専門家から聞いた実話です。
情熱を傾けることも大切です。
アイデアに惚れるのもいい。
でも事前に調べることがどれほど大事なことかわかってもらえますか。
あなたが企画した販売戦略は、特許を取得できる新製品と同じように画期的なアイデアかもしれませんが、机上のアイデアは通用しないリスクを抱えています。
ドーンと展開する前に市場調査が必要だし、小さなテストを何度も行って反応を確認したほうが賢明です。
ー 撮影場所と機材 ー
青森
Canon PowerShot G7X
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吉見 範一(よしみ のりかず)
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