社長は耳を貸さなかった。
ビジネス書は数百冊も読んでいたし、
二代目として、いつか自分が会社を
継ぐこともわかっていた。
先代が亡くなり、
数年間はそのまま仕事を
引き継いでいたけれど、
状況は徐々に悪くなっていった。
あれほど売れていた主力商品が、
もう時代に合わなくなっている。
それは、社長自身が
いちばんよくわかっていました。
会社にまだ体力があるうちに、
新しい商品を開発しなければ。
そんなとき、たまたま出会った材料に
ひらめいたんです。
「これ、使えるんじゃないか?」
これまでに蓄えた知識もある。
他社はまだ手をつけていないか。
価格は従来品と勝負できるか。
耐久性はどうだろう。
真似されたときの対策は?
あれこれ検討するうちに、
社長の自信はどんどん深まっていきました。
やるなら、一気に市場を取る。
そう考えた社長は、
新聞、雑誌、ネットに資金を投入し、
一気に宣伝を始めました。
周りの人間は、
この商品の可能性がわかっていない。
自分には成功までの道筋が見えている。
だから、周りの意見に
耳を傾けようとはしませんでした。
ところが……。
結果は惨敗。
注文は、まるで入らない。
事務所はシーンと静まり返り、
問い合わせの電話もメールもありませんでした。
人は、知らないものには
反応のしようがないんですね。
そばで見ていた私は、
いろいろなことを学びました。
自分のアイデアに惚れ込むと、
周りの声が聞こえなくなる。
これ、社長のそばで見ていて、
こうなるかもしれないという心配が
的中したときは、
ホントに心苦しかった。
あの後もしばらく勤めていたけれど、
まもなく退職しました。
後日、知ったんです。
自宅も加工場もすべて取り壊して、
マンションを建てたらしい。
いまは家賃収入で
のんびり暮らしているそうです。
なんだかなぁ~。
ー 撮影場所と機材 ー
長野/飯田
OLYMPUS OM-D E-M10 Mark IV
LUMIX G 14mm / F2.5 II ASPH.
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吉見 範一(よしみ のりかず)
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