あのときは焦ったなぁ。配線器具メーカーで営業をしていた頃の話です。あの日、自社の商品はライバルのN社の隣の棚に陳列するように指示されました。メーカーごとの棚割りです。お客様は棚の前に立つと自社かN社か、いずれかのブランドに決めてその中から商品を選ぶことになる。

1年後、決算前の棚卸しが終わると売り場の提案を求められました。N社は新製品の追加を提案してきた。内容は従来品のカラーバリエーションの追加です。なんと自社の商品展開に合わせてきた。自社も他社のいいところは真似しているし文句を言うつもりもありません。好きなようにさせるしかない。

問題はこのままでは相変わらず来店したお客様はブランドを決めて、その中から選ぶことです。N社のほうが自社よりも何十倍も知名度が高いんです。この条件だと不利なんですよね。そこで私が提案したのは商品をブランドごとに区別する見せ方ではなく、同じ棚に複数のブランドを混在させて展示する売り場です。

担当者は管理することが難しくなると消極的だったが、店長の同意を得て再構成させてもらった。失敗すれば次の商談はかなり厳しいものになる。でもやってみてダメならすぐに元に戻すということで納得してもらいました。

狙ったのはリニューアルによる目新しさではありません。私が注目したのはこの店の立地です。メインとなる商圏はワンルームマンションが次々と建てられていて、また独身者向けのアパートも多かった。調べてみると異動の時期になると単身赴任のビジネスマンの引っ越しが多いことがわかりました。

そこでブランドにこだわらず、家電品を中心にワンルームマンション向けに商品を集めてみたんです。特に自社の強みでもあるデスク周りの配線器具はPOPの改良など見せ方も工夫しました。

初日は焦った。従来の売り場に慣れているお客様から立て続けに「買いにくい」とか「選びにくい」と言われ、売り場担当者の顔が徐々に険しい表情になっていく。午前中の動きがない! お客様は売り場の前を素通りしていく。この状況は午後も同じでした。「まいったなぁ。失敗したかもしれない」不安がどんどん大きくなり私の気持ちは沈んでいきました。

売れない。夕方6時すぎになって、やっとひとり、仕事帰りのビジネスマンが売り場の前で立ち止まってくれた。「頼む。ひとつでもいいから購入してくれ」と祈るような気持ちでその様子を見ていました。期待通りにはいかなかった。黙って見て、しばらく考えて、そのまま立ち去ってしまった。翌日もほとんど売れなかった。覚悟を決めました。売り場を元に戻さなければならない。

ところが土曜日になると動きが出始めた。午前中から様子が一変したのです。男性客が次々と買い求めていく。配線器具だけではなく、売り場に展示していた雑貨類もまとめて購入していく人が多かったのです。翌日、日曜日は私の会社は休みなのに「商品の補充をして欲しい」と売り場の担当者から電話がかかってきた。予想以上の売れ方に喜んでいました。

これは新製品の紹介やお店のレイアウトの提案ではなく、お客様の頭の中に何を連想してもらうのか、そのためにはどうすればいいのか、そこを狙った提案です。当時はマーケティングなんて知らなかったけど、あれこれ試しながら実践で覚えていきました。理論はあとからでも覚えることができます。いろいろと試せる今がマーケティングを理解するための下地が作られていくチャンスです。

さあ、一緒に挑戦しましょう!

 

 

 

 

ー 撮影場所と機材 ー

愛媛県/松山
Canon PowerShot G7X

 

 

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吉見 範一(よしみ のりかず)

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